「学校では教えてくれない21世紀での生き方」第5回目は、株式会社ビービット代表取締役の遠藤 直紀様にご登壇いただき、【Work in Life 「幸せ」って何だ】のテーマでお話いただきました。
不確実性が高い世の中で、人生を幸せにするための働き方について知っておくべき内容が盛りだくさんです。「幸せ」について一緒に考えていきましょう!
捉えるべき社会変化
遠藤さんは、2000年に株式会社ビービットを創業し、UX(顧客体験)のコンサルティングとSaaS「USERGRAM」を融合したソリューション事業を東京・台北・上海の3拠点で経営されています。
そんな遠藤さんは、ご自身が社会に出た当初と現在はとても異なる社会になっているとおっしゃいます。ではどんな変化が起きているのか、見ていきたいと思います。
働き手の減少を受け止める
まず、1つ目は日本の働き手の減少です。
高齢化率が上がり、日本全体の人口が減っていることが顕著に分かります。働き手が減るということは、国として「稼ぐ力」が劇的に下がるということです。私たちの親が産まれ、社会に出る時代はちょうど働き手が増えていますが、私たちの時代は働き手が減る時代であり、全く異なるフェーズに立っていることを理解する必要があります。
潜在的で不確実性の高い需要を提供する
2つ目は過剰供給が需要を飲み込みこんだ結果、所有への渇望が減り、みんなが同じものを欲しがる必然性が消えたことです。
私たちの身近なところではテレビ番組が分かりやすいのではないでしょうか。テレビ業界で年間でのヒット(視聴率30%を超えるもの)の年間の番組数ですが、1979年には年間に1860本ありました。これが2020年は2本(紅白歌合戦と半沢直樹の最終回)のみになっています。昔はモノや情報が不足していたからこそ、不足に起因する不安から、みんな同じモノや情報を欲しがる傾向がありました。現在は満ち足りているため、明示的に足りていないものは少なくなりました。ビジネスの世界では、本当に欲しくて買って貰えるのかわからない、そんな不確実性が高い環境の中で、新たな製品やサービスの開発が必要になってきています。このような変化によって、経済活動の力点も変わってきているのです。
日本は成熟市場におけるアプローチが得意ではない?
ここで1つ、潜在的ニーズを捉えたノースウェスタン大学ビジネススクールのケースで取り上げられている関数電卓の事例をご紹介しましょう。
日本企業で米国市場に初めて投入し、No.1のシェアを誇っていたCasioの製品と、アメリカのTexas Instrumentsの製品のケースです。
Casioは多機能であるに加え、金額もTexas Instrumentsより抑えられています。しかし、結果は後に参入して倍以上の金額がする上に少ない機能のTexas Instruments社が市場を勝ちとります。
では、何が、2社の運命を分けたのでしょうか?
Casioのアプローチは不足時代の「いいものを生産すれば買ってもらえる」という製品中心の考え方をしています。それに比べ、Texas Instrumentsのアプローチは、顧客を定め、徹底的に顧客を理解した上で課題解決をするアプローチ手法を取り入れています。具体的には関数電卓を「先生」のために、「生徒をモニタリングしたい」という課題解決を目指した製品を提供したのです。
日本は高度経済成長時代に、多機能で壊れない、低価格な良い製品を提供することを得意としてきました。しかし、その後、豊かになった社会への変化に対応する力が弱かったのです。それでも、やっと新たな顧客課題を解決する成熟市場に適したアプローチ方法に向けて変化が起き始めていると言えます。
デジタル浸透社会の到来
3つ目は、デジタル浸透社会が到来していることです。
人々は、スマートフォンの普及によって常時デジタル環境に身を置くようになりました。そこでは、利用者のデジタル行動データが取得できるため、デジタルサービスは日々改善されながら、日進月歩で進化しています。デジタルを基盤とした新興企業が勢力図を塗り替えつつあります。
イノベーションを起こす
上記のような変化が進む今、求められているのは「イノベーション」です。イノベーションは、既知と新たな知の組み合わせによって実現できます。※1
現時点で行っている事業の効率をどんどん上げていくことに加え、新しい知の探索をしていく必要があるのです。このように企業の取り組み方も変化が求められているのです。
Work in Life
ここまで、捉えるべき社会変化をご紹介いただきましたが、ここからはワークとライフについて考えていきましょう。
人生の「幸せ」を考えてみたいのですが、実際に働くことに時間を使う以上、ワークもライフの一部です。働いている時間が不幸せならば、人生の一部も不幸せになります。それでは、働く上で何を大切にすると幸せを感じられるのかが重要になります。その中でも遠藤さんはご自身の経験より、「誰かの役に立つことを働く目的にすると幸せになれるのではないか」とおっしゃっています。では、なぜ役に立つことが重要なのでしょうか?
遠藤さんは、新卒で入社したソフトウェアプログラミングの会社で何を作っているのか、誰の役に立っているのかも教えてもらえずに、お客さまにとって良い価値提供もできず働いていました。そのような働き方をする中で、ご自身のエネルギーがどんどん奪われていく感覚を持ったとおっしゃいます。このような経験から、人間は社会的な動物であり、助け合うことに喜びを感じるものであることを実感したのです。遠藤さんはその後、ご自身でキャリアを切り拓いていきますが、起業をし立ち上げ後の半年間は会社が潰れかけたり、3,000万円もの借金を抱えたりと順調とは言えませんでした。
「創業記」から得た世界の名だたる企業の共通点
そこで、成功する会社とは何かを理解しようと思い、遠藤さんは様々な会社の「創業記」を読み漁ります。世の中にある良い会社が、自分たちの会社と何が違うのかを考えたのです。その中で、株式会社ダイエーを立ち上げた中内功さんの創業記に感銘を受けます。中内さんは第二次世界大戦で非常に苦しい経験をしたことから、次の世代が同じ苦しみを味合わないような社会にしたいと思い、「日本中のどこに行っても安心して食料が手に入る時代をつくる」ためにダイエーを創業したと言います。流通革命を実現したのは、次の世代のためにという目的を持って働いていたからこそだと感じたそうです。中内さんのみでなく、世界の名だたる企業について調べていくと、「課題を解き、世の中をより良く変える」「誰かの役に立つことを目的に創られている」ことが見えてきました。相手に向けて良い波を打っていくと、結果として自分の方に良い波が帰ってくるように社会はできていることを学んだとおっしゃいます。
仕事と起業と人生についての学び
遠藤さんご自身が経験してきた経験から3つの学びを教えていただきました。
まず1つ目は、知の探索についてです。
今の社会に関して、知の探索が足りていないとおっしゃいます。探索は、すぐに結果に結びつかないことが多いが、探索に失敗はなく、仮説に関する学習があるだけで、挑戦を繰り返し、諦めない人が成果を、達成する喜びを掴み取っていきます。
2つ目は、仲間の存在です。
会社を作って大きくしていくためには、どういう社会にするために、どんな価値を提供したいのかを語るビジョナリーなリーダーがもちろん必要です。そして、優れた管理者がいないと活動を効率的に動かせられませんし、お金が尽きれば活動は止まってしまいますので、忍耐強い投資家も必要です。様々な役割を担う仲間がとても大切になってきます。起業はアントレプレナー1人では成功しないのです。
最後は、正義の反対は別の正義であるということです。
グローバル環境で、様々な国籍の仲間と働く経験が多い遠藤さんだからこそ、日々感じることも多いかもしれません。自分の一方的な見方だけではなく、自分の殻を破り、寛容さを身につけて成熟することが必要だと言います。遠藤さんは大学生の時にアメリカに留学した経験が視野を広げてくれたとのことで、様々なアプローチがありますが、大学生のうちに動き回って、視野を広げてほしいとおっしゃいます。
質疑応答
Q:遠藤さんの使命は何でしょうか?
A:今までの経験から、企業とお客さまの距離を縮めるのが使命だと思っています。組織管理は得意ではないですが、ビジョンを描いてぶらさないのは得意です。みんながそれぞれの得意がある中で、私は挑戦の数を大切にしています。使命を果たすために、どれだけ打席にたてるかを大事に考えています。
Q:遠藤さんは、野心は必要だと思いますか?
A:若いうちは野心があっても良いのではないでしょうか?エネルギー量は大切だと思います。
Q:遠藤さんがもう一度学生に戻ったらどんな挑戦をしたいですか?
A:もう一度長めに留学したいです。
あとは、大学生だから深掘りできる、自分が本当に興味がある勉強をしたいです。実は、大学でたまたま学んだ消費者心理学が、今の仕事のベースになっています。私たちの事業であるUXはユーザーを理解することで、まさに学んだ消費者心理と相対しています。自分の興味をどんどん探求して、勉強をするのが良いと思います。そして、世界中の賢者の知見を吸収できる読書がおすすめです!
Q:行きたい業界が決まらない場合、今後伸びる業界に行くのは良いのでしょうか?
A:今デジタルやIT業界が伸びているが、今後も伸び続けているかは分かりません。それとは別の話ですが、無理やり向いている業界を探すために、過大な自己分析はしない方が良いと思っています。多くの人が両親に学費を出してもらい、大学を出ている苦労が少ない状況、人生の機微もない状態で、深みのある答えが出せるのでしょうか?
やりたいことがあるのであれば、それをやれば良いです。判断軸を追加するのならば、選択肢が複数ある時には、より大変な方を選ぶのが良いです。挑戦量が多い方が良いです。尻込みはするかと思いますが、難所を乗り越えて人は成長をしていきます。こっちの方が楽して儲けられるといった打算的な人は、最終的には損をすると思います。
Q:誰かのためやどんな課題を解決したいかよりも、自分のためのキャリアを進めるのはよくないのでしょうか?
A:悪くはないと思います。エネルギーがないと続けられないですが、自由産業の中では、長期的に仕事を継続するためには誰かの役に立って対価をもらう必要があります。商いの基本は価値の創出であるので、やりたいことで価値を提供できると良いですね。
Q:誰かの役に立つことを考える時、具体的に「誰か」を意識されていますか?
A:私自身は明確に思い浮かべる人がいます。
現在は、過去に会社を立ち上げていた際のお客様のための課題を解きたいと考えています。
共感ができる、この人の役に立ちたい気持ちが大事ではないでしょうか。
共感は1人にしか発動することができません。そして、その1人が持っている課題は1000人、1億人の人も抱えている課題かもしれないません。人間の問題は個別性ではないため誰か1人のためは多くの方の課題解決に繋がっていく可能性が高いのです。
最後に
遠藤さんより皆様へメッセージをいただきました。
「どんな方向性でも良いが、バントではなくバットを振り抜いて欲しいです。
全力で打ち込んでいる人は美しいです。エネルギーを投下して欲しいと思います!」
いかがでしたでしょうか?
20代から挑戦を重ね、自分の人生を切り拓いてきた遠藤さんだから語れる想いの詰まったセミナーでした。時代の変化を捉え、人生を豊かにするための行動に繋がる学びの多い内容でした。
また、遠藤さんはTEDxTodaiにもご登壇されており、「貢献志向の仕事」をテーマにお話されていますので、ぜひこちらも合わせてご視聴くださいませ。
TEDx Todai 貢献志向の仕事
最後に、「学校では教えてくれない21世紀での生き方」はこれにて最終回となりました。
ご視聴いただいた皆様、誠にありがとうございました。
少しでも皆様の「生き方」や「キャリア」について、考えるきっかけとなっていますと幸いです。
今後も、ZINZIENでは、学生の方々や社会人の皆様に役に立つセミナーを定期的に企画・実施していく予定ですので、ご関心のある方は是非ご参加下さい。
※1 両利きの経営(ambidexterity):現在の主力事業以外にも積極的に新規事業を考えましょうという経営論。チャールズ・A・オライリーとマイケル・L・タッシュマンが提唱した経営論。早稲田大学教授の入山章栄氏が「両利きの経営」という訳語を当てて発信し、広く知られるようになった。